PEOPLE

那珂川の人

陶芸家

築地 慶太

1981年、南畑で工房を開く。現在に至るまで、主に個展発表や海外での活動が中心。父から貰った宿題の舎利壺作りも27年が経過。色々な人生に思いを馳せて制作した永遠の器との出会いを楽しみにしている。

勉強してね。

曼荼羅窯の曼荼羅には「真実を知る」という意味があるそうだ。

「だけどそう言うと大層に聞こえるから “万年だら~っ”を曼荼羅に縮めたって言うの。万年だらっとしてね。笑」

と話すのは、この工房のオーナー、築地慶太さん。

築地さんが南畑(福岡県那珂川市)に移住したのは約40年前。

南畑の作家の中では、最初期に移住したグループにあたる。

そんな築地さんに南畑の魅力を尋ねると、

「田舎で空気や水がおいしい。それとさ、町の人は冗談のように思うかもしれないけど、朝、鳥の声で目が覚めるとか、夜にはフクロウが鳴くとか、冬が近くなると日暮れが早いとか、そういうことがね、自分に大事なこととして伝わってくるの。

昨日来たイノシシがすごかったねーとか、雨がすごかったねーとか、そういう自然からのお知らせが忘れていたものを目覚めさせてくれる。お金では計れないしあわせがここにはありますね」

曼荼羅窯があるのは、南畑の六つの区の一つ、成竹区の山の上。

そこから見た風景は壮観で、たしかに「いただいている」感じがした。

お目にかかるのははじめてだったけれど、築地さんの語りは「万年だら~っ」といって笑わせてくれるサービス精神旺盛な面と「真実を知る」ことに関わるシリアスな面とが交錯していた。

気さくに話している時間のほうが長かったはずなのに、いま印象に残っているのは、あの喉元に剣先を向けられたような、ヒリヒリした感触だ。

問われて答えに窮する場面もあったし、緊迫する場面もあった。冗談なのか真剣なのか図りかねて、ハラハラしながらお話についていく時間も多かったように思う。

そのとき、熱を込めて語られていたのは、築地さんの「夢」だった。

「僕はここの地域をアートの村、文化の発信基地にしたいの。たとえば、中ノ島公園の中に彫刻を置いたら、お母さんと子どもが土日にお弁当もって来るね。美術館にお金払って入るんじゃなくて、お弁当食べながら彫刻が目の前にあって、それで子どもが育ってごらんよ。

文化というものは等しくみんなをハッピーにしてくれる。そして文化はみんなが育てるもので、そういう仕掛けが町の中にセットされていると、住んだ人がどんな人になっていくか楽しみになるし、那珂川という町に住みたくなる。そういうところにしたい」

築地さんはその場所を “自由人の村” と呼び、陶芸家の役割をこう語る。

「陶芸家は商工業者じゃなくて文化的な発信をするの。物をつくるっていうのは売り買いが目的じゃなくて、カルチャーなのよ」

文化的な発信。売り買いじゃなくて、カルチャー。

その例として、築地さんはライフワークにされている骨壺の話をされた。

「僕は物を通した発信として骨壺をつくってるんだけど、骨壺っていうのは、骨を入れるんじゃなくて、その人の人生を入れるわけ。“あなた” を入れるわけ。物入れつくってるんじゃなくて啓蒙活動。自分は自分の人生を生きているわけだから、どれに誰が入ってるかわかんないようなね、(既成の)骨壺でいいんですかっていう問いかけをしてるわけ。」

その人の人生ぜんぶを入れる器。そんなものをつくる仕事はさぞプレッシャーだろうと想像したのだけれど、返ってきた答えは意外なものだった。

「いや、もっと楽しむっていうことね、つくる方が。こう葉っぱをつけて、ここをもうちょっと楽しくしようかなって、エンジョイしてつくるってことだから。それと、オリジナリティね。アートはオリジン(源)。人のマネじゃいけないわけ。っていうのを自分に課して、人がつくってないものをつくろうと思う。だから一生懸命人のものを見て勉強して、マネになってないかっていう勉強もするよね。」

ここ、さらっと読めてしまうけれど、築地さんがいう「エンジョイ」や「勉強」は、僕たちが思うのとは厚みが違うように感じられた。

あの圧倒的な感じ。それが対面した時のヒリヒリした感触につながっていた気がする。

「物つくりはね、よーし今度はあそこから花火ドーンと打ち上げて、カカーッてやってやろうって、そんな姿勢が皆さんの夢を、毎日の生活を楽しくさせる。そのために仕事してるの」

人の夢を、毎日の生活を楽しくさせるものをつくる。しかも楽しんで。

その「楽しんで」というのは、ただの「楽しい」ではない。

そう思うのは、取材が終わった後の手持ち無沙汰な時間に、先生がぽろっと、こうつぶやいておられたからだ。

「好き嫌いの話じゃないっちゃん」

アートは好き、嫌いといった人の嗜好に留まるものではなく、それをはるかに超えたなにかである。そんなふうに聞こえた。

アート、カルチャー、町づくり、文化行政に至るまで、広範なテーマに及ぶ二時間強の語りは、僕たちへの講義のようだった。そして最後の最後、別れ際に、築地さんはあの気さくな調子で「勉強してね」とぽんと言われた。講義終了のチャイムみたいに。

曼荼羅窯の曼荼羅には「真実を知る」という意味がある。

真実を知るための勉強が、生やさしいわけがない。

それを「エンジョイ」することが人の仕事なのかもしれない。

写真と動画: 川嶋 克  インタビューと文: 澤 祐典

インタビューは南畑美術散歩のHPから引用しています。(南畑美術散歩公式HP https://bijutusanpo.tumblr.com)

 

 

MAP

店名
曼荼羅窯
住所
那珂川市成竹1197-192
電話番号
092-952-2812
Webサイト
http://www.mandara-gama.com
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