PEOPLE

那珂川の人

彫刻家

竹中正基

30歳のとき、南畑に移住。那珂川の木が気に入ったことも移住した理由の一つ。以前は家具を中心に作っていたが、最近は子どもたちが使うような小品を中心に制作活動を行っている。

僕のふるさとにしようと思った。

⽵中正基さんは、福岡県那珂川市で「先⽣」と呼ばれている。市内の中学校で10年間、美術の先⽣をしていたからだ。

「おれは先⽣やない!って⾔うけど、もうしようがない。呼び名やね」

ということで、普段、僕たちも敬意を込めて「先生」とお呼びしているのだけれど、では、この記事では「さん」付けで。

竹中さんの⼯房「彫刻工房竹中」は、南畑(福岡県那珂川市)の成⽵という地区にある。今回このインタビューのために⾊々な⼯房をまわったけれど、⽵中さんのところは⼊るとぱぁっと明るい感じがして、⼈のぬくもりを感じた。

「那珂川に、僕は30 歳で来たんですけれども、⼀つはいい材料があるということで来たんです。森林組合で製材してる材料なんかこう⾒てましてね、『ああ、これは使うべきだ』と思って、ベンチとかテーブルのようなものをつくりはじめたの。それまでは僕は粘⼟で具象的なものをつくってたんですけど、ここの材料を⾒て、ああ、これはやっぱり⽊彫をやるべきだなと思って。そして、⽊彫で具象をやるんじゃなくて抽象をやろうと』

具象から抽象へ、作家に作⾵を変えさせるほどのインパクトが那珂川の⽊にはあった。やがてその作⾵は、実⽤のための家具づくりに変わっていく。


この変遷のくだり、すごく好きなエピソードのひとつだ。

「抽象から実⽤に移ったところは、まあ⼀番⾃分の中でね、難しいとこなんだけど、僕は⼗⼈ぐらいの彫刻仲間で『⽞』という展覧会をずっとしてたんです。みんな、すごい彫刻をするわけですよ。僕はもう遊んでばっかーおって、酒ばっかり飲んでたからね。あんまりいい作品もできないし、ああ、こりゃあ友だちからはやっぱり負けとるなーと思ってね。抽象やってたけども負けてるな、なんか⾃分も探さないかんなと思ったときに、展覧会にベンチのような彫刻を出したわけです。

売れたんですよ。会場で売れたんです。それまで会場で作品が売れるなんてことはなかった。その頃はもう教員やめてましたから、彫刻でメシ食ってやろうなんて大それたことを考えてですね、やってたから、売れたのは非常にうれしかった。」

「売れたんですよ」の⾔い⽅が、本当にうれしそうだった。売れるってうれしい。そうだよなあとしみじみ思った。

「あと⾔えば、もうなんかカッコいいことは⾔えますけどね、実際、作って売れなきゃね、しょうがないやね」

そうして、40代、50代、60代と家具をつくりつづけ、南畑に来て50年。近年は、⼦どもたちがつかうような⼩さなものをつくっているという。

「だんだんその、体⼒が落ちましてね、歳をとりましてね、⼩さいものに移っていったというのが⼀つと、もう⼀つは⼩学校でね、南畑の材料をつかったものでなにかできないか、それで授業をしてくれないかという話が、⼗年以上前にあったんですよ。それで物掛けをつくって、⽵とんぼをつくってってやってるうちに、いろいろなおもちゃのようなものをつくりだしたと。

これ、美術散歩のためにつくったの。登り⼈形なんていうのは、もう誰でもやってることなんですけれども、これつくりますと喜んで遊んでくれます、⼦どもがね。美術散歩で⼦どもが来るじゃないですか。なんかこんなもん(⼯房の作品)⾒たってしょうがないじゃないですか。でも登り⼈形やったらみんなもう並んでやって楽しんで帰ると、まあそんなふうでね」

⼦どもたちのためにつくったという⽵とんぼを並べてもらうと、ちょうどいま、僕らがみている秋の南畑と同じ景⾊になった。

ふっと、なつかしい童謡が浮かんだ。

⼣焼けこやけの ⾚とんぼ 負われてみたのは いつの⽇か

「僕はその、朝鮮⽣まれなんですよ。⼗歳まで朝鮮で育った。朝鮮の中でも点々と動いて⼩学校、五回変わってるんですよ、六年間で。だからふるさとっていうものがないんです。市内に10歳で引き揚げてきて、⼩学校の六年、中学校、⾼校と福岡市内で過ごしたけれども、なんかね、ひとつ違うんだねぇ。それはもう博多の⼈間、博多弁もつかいきるし、友だちはずっと博多にいますよね。だけど、なーんか違う。」

「でも、ここで、僕の⼦どもたちがずーっと成⻑してるのを⾒たら、ああ、⼦どもたちにとっては、やっぱりここがふるさとだなって思ったんですよね。いま娘がパン屋さんしてるんです。そしたらあなた、パン屋さんはじめたら、近所の⼩中学校時代の友だちがグッと応援してくれるじゃないですか。僕はだーれも応援してくれる⼈はいませんよねぇ。だけど彼⼥がここで商売はじめたらグッと応援してくれる。まぁ、ふるさとってのはいいもんだと思いますよ。だから⼦どもたちにとってのふるさとだから、僕のふるさとじゃないけれども、僕のふるさとにしようと思った。それが南畑と僕とのつながり。」

うさぎ おいし かの⼭ こぶな 釣りし かの川

なぜかわからないけれど、僕はこのインタビューをしていてちょっと泣きそうになった。同席していた同僚も、同じように感じたという。

たくさんの⼈に、「先生」に会ってもらいたい。そんな思いで、この記事を書いている。

でも、竹中さんと⼯房のあの感じは、⽂章ではぜんぜん⾜りない。ぜひ⼯房を訪れて、じかに会ってみてほしい。

好きにならずにはいられないはずだから。

写真と動画: 川嶋 克  インタビューと文: 澤 祐典

インタビューは南畑美術散歩のHPから引用しています。(南畑美術散歩公式HP https://bijutusanpo.tumblr.com)

 

 

MAP

店名
彫刻工房 竹中
住所
那珂川市成竹419-4
電話番号
090-8838-4054
営業時間
土・日(11時から16時)オープン
お越しの際は上記携帯にご一報いただけるとスムーズかと思います。
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