PEOPLE

那珂川の人

ステンドグラス作家

後藤 ゆみこ

1996年南畑に移住。自然の中での暮らしを楽しみつつ、様々なガラスの世界を展開中。灯りのギャラリー「字。雲光」と小さなクラフトショップを併設。木・金・土に教室を開催。

天職だとしか⾔いようがない。

「元々⼭だったんですよ。杉林。何回来てもここがいいな、と思って。ここにいると⿃の声とか、夏から秋にかけて急に⾵がかわる瞬間とか、冬のにおいとか、そういうのがすごく敏感に分かって、そういう中で制作をするのが理想だなと思って」

ここは南畑地区、不⼊道(ふにゅうどう)のウェーブG グラス⼯房。385 号線から⾞で1、2分の場所にも関わらず、⾃然に囲まれた気持ちのいい空間が広がっている。

⼯房を構えるとき、杉林を開墾すると思いがけず⽬の前に脊振⼭(せふりさん)が現れ、薄暗かった⼟地は明るくなり、祝福されているような気がしたそう。実は登記上ここの住所は、「字(あざ)雲光(くもこう)」という。⽂字通り、⼟地に光が差したというわけだ。

後藤ゆみこさんはこの緑のなかで、⾊とりどりのガラスを組み合わせて窓やドアといった⼤きなものから、ランプや⼀輪挿し、トレイなどの⼩さなものまで、様々なステンドグラス作品を作られている。

以前はマンションの⼀室で作業をされていたというが、アメリカのシアトルでステンドグラスを学んだのをきっかけに、⼯房を⾃然の中に移された。留学先の⼯房が⼭の麓にあり、森の中で作業をしていたら、幼いころ⼭の中で育ったことなど、忘れていたものを思い出した気がしてハッとしたという。

そして帰国後たまたま⼊った不動産屋さんで、「いい物件があります」と、この⼟地を紹介された。

時間に少し余裕ができたときに、作りたいものを作っていると不思議と誰かが気に⼊って買っていってくれる。といっても、ここに来てからというもの、そういった暇な時間はほとんどないのだそうだ。

「⾃分で動かすというより、そうさせてもらっている感じですよね。緑が綺麗だし、光も綺麗だし、⿃の声は聞こえるし。⾃然の中に⾝を置いたのが良かったのかなと思ったりする。享受ですね」

「あの⼈どうしてるかな?」と思ったら、ちょうどその⼈から⼿紙が届いたり、電話が鳴ったり。⾃分とは異なる世界観を持った⼈や、海外からお客さん、⽇常に疲れている⼈など、時には普通は会わないような⼈との出会いもあり、後藤さん⾃⾝も影響を受けているそうだ。

ステンドグラスをはじめたのは、結果の⾒える趣味を探していたとき、新聞で教室の案内を⾒つけたのがきっかけ。広告を⾒たとき、「ああ、これだな」と感じたんだとか。

「出⾝は有⽥で、有⽥といえば焼き物なんだけど、隣は佐世保なんですよね。だから遊びに⾏くのも佐世保だったし、⽇曜学校に⾏ったりもしてたので、教会⽂化に中学⽣ぐらいから興味があって。なんとなく憧れがあったのかもしれない。それでステンドグラスに出会ったときにもう全然迷わなくて。これこれって」

そうして⼆⼗歳でステンドグラスを趣味としてはじめた。すぐに没頭してしまったそう。

「うまく説明できないけど、何をやっているよりステンドグラスをしてるほうが上だったんですよ。⾊々雑念があったり他の事考えたりしてても、ステンドグラスを作っているときだけは、ズボンとその中に⼊ってしまって、他に何も考え事ができない。天職だとしか⾔いようがないかもしれないですね」

ステンドグラスをはじめて40年近くなった今でも、ガラスを⾒るとワクワクして、このガラスを使ってどんな表現をしよう?何に使おう?とすごく気持ちが盛り上がるという。

後藤さんは、そんなワクワクを南畑の⼩学⽣にも制作体験の授業で提供されている。(詳しくは「文化の種を植える〜南畑小の制作体験のこと」の記事をご覧ください。)

「こんな⼤作を作れたことに⾃信を持って、⾟いことがあってもその灯りを⾒て、優しい気持ちになってくれたら」と話される。

最近ではお墓のデザインの仕事も増えているらしい。ご遺族と共に、亡くなった⽅の⼈柄や、どんな⼈⽣を歩んできたのかをじっくり聞きながら、何を描くか、何⾊のガラスを使うかといった詳細を決めていく。

「その⽇の天気や季節によって思いがけない光がでたり、お⺟さんをイメージして描いたお花に光がパーっと差したりすることもあるんです。そういった奇跡の瞬間で故⼈を思い出したり、優しい気持ちになったり。泣いてしまう⼈もいらして。なんかすごく、与えられた役割のような気がしています」

できあがった作品やその光を⾒て、⼈の⼼が動くのはどうしてだろう?と考えたとき、後藤さんの想いが込められていることや、あたたかな⼈柄も理由だと思うが、「与えられた役割だから」というのがぴったりだと感じた。

 

「そこに私は住まないし、ずっと(作品を)⾒ているわけでもないけど、お客さんから家の窓に、『こんな輝きが出た』とか『予想もしてない光が落ちてきた』とか⾔われるとすごい嬉しいし、やった!と思う。もうほんとに、瞬間瞬間違うの。⾃分も⼀緒に驚いてるし、喜んでるって感じです。そんな仕事です。いい仕事です」

⾃分の仕事が「いい仕事」だと胸を張って⾔えること、その仕事をとても楽しいと感じること、そしてそこに⼈が⾃然と集まってしまうこと。それはやっぱり、天職だとしか⾔いようがないと思う。

 

写真と動画: 川嶋 克  インタビューと⽂: 藤本 千尋

インタビューは南畑美術散歩のHPから引用しています。(南畑美術散歩公式HP https://bijutusanpo.tumblr.com)

 

 

MAP

店名
ウェーブG グラス工房
住所
那珂川市不入道834
電話番号
092-952-2271
Webサイト
http://wave-g.com
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